1,810文字
ある集落で暮らす黒い男が、寂れた河川敷で、白い少女と出会います。
腐った果実 ‐Rotten Fruit-(旭) |
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ジャンル ―― ADV |
発売日 ―― 2021年08月21日 |
価格 ―― 無料 |
おすすめ度:★★★★★ |
満足度 80 点 |
プレイ時間
私のプレイ時間は1時間かからないぐらいでした。
感想
プレイした動機
私はさっぽろももこさんのファンです。2年まえに、彼女がBGMを担当したフリーゲームが発表されたのでプレイしました。
が、イラストとシナリオを担当した旭さんの巧みな筆致に舌を巻きましたね。
ストーリー展開を知ってしまうと、面白さが半減してしまうタイプの作品です。
以降は、ネタバレありの記載をします。
プレイ時間は1時間掛からないぐらいですし、ぜひとも先にご自身でプレイしてみてください。
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独特な雰囲気に魅了される
ゲームを起動すると、『ルーマニア民族舞曲 1.棒踊り』をアレンジしたBGMが流れます。
原曲よりも物悲しさとアンニュイな雰囲気が漂うそれに耳をかたむけプレイ開始。
主人公はどうやら黒ずくめの男。
人里離れた場所を根城にしていて、日中は、街に繰りだしては食料をさがしています。
日が暮れると、「廃墟」に仲間とあつまることをルーチンとしていました。
人混みが嫌いな主人公は、ある日、河川敷に食料をさがしにいくことに。
そこで、真っ白な少女に出逢います。
無口で何を考えているのか分からない少女。
彼女からは強烈な甘い匂いがする。
抗えないその魅力に惹かれるように、彼女に近づいていく主人公。
それ以降、彼女と会うことが日課になるのでした。
主人公は夢をみます。
夢の中での少女は、天真爛漫で、キラキラしていて、かがやく笑顔が愛らしい。
ギャップのある「夢」と「現実」をくりかえすことで、ストーリーが進行していくのです。
現実の少女に何度か会ううちに、断片的にではあるのですが、喋りかけてくれるようになります。
主人公は、彼女に喜んでもらおうと、プレゼントを渡しました。
緑色にかがやく宝石をプレゼントするのですが、なにごとにも興味を示さなかったはずの彼女が反応します。
彼女は言いました。宝石はお母さんを思い出すのだと。そして過去に、主人公に会ったことがあると。
つづけて彼女は、血の涙を流しながら語ります。
大好きだったお母さんがいなくなってしまったこと。
お母さんがいなくなったら、お父さんが暴力をふるうようになったこと。
学校に行きたかったのに、部屋に閉じこめられていたこと。
部屋の窓から見かけた主人公が、自由に行動しているように見えて羨ましかったこと。
弱っているはずなのに、血の涙をながしているのに、主人公は今までにないぐらい甘い匂いを感じて、彼女を、より美しいものだと認識しました。
そして彼女の「目玉」を食べるのです。
……はい。意味不明ですよね。
私も当初は混乱しました。
急にカニバリズム的な展開がぶっこまれてビックリしました。
少女は、このまま朽ちていくぐらいなら、あなたに食べてもらいたい。一緒にいたい。空に連れていってほしいと言うのです。
そして、真相が明らかになります。
主人公は、実はカラスだったのです。
全身黒ずくめ、ネコが苦手、人混みが嫌い、廃墟に住んでいる、夕方に仲間とあつまるルーチン、キラキラとしたものを集める習性、少女から強烈な甘い匂いを感じた意味。
その全てが、実は主人公がカラスであったことを示していたのでした。
ずっと部屋に閉じこめられていた少女は、父親のもとから逃げ出したかった少女は、母親のもとへ行きたかった少女は、自由に空を飛び回りたかった少女は、カラスに体を食べられたことでその一部となり、一緒に空に飛び立つことができたのです。
悲惨な人生を送ったはずの彼女。しかし、安心しているような、笑みを浮かべているような、穏やかな表情で亡くなっていたのです。
もしかしたらモヤモヤする結末だと感じた人もいるでしょう。しかし私は、こういう結末が好きなんです。
もちろん傍から見たら不幸な人生だったのかもしれません。それでも少女は、最期に、誰よりも自由に大空を飛び回ったんだと思います。
まとめ
短くもギュッと詰まった魅力的なストーリー展開。
そして、夢と現実のはざまを行き来する不思議な感覚。雰囲気の良さ。非常に私好みの作品でした。
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