5,070字
百年の恋よ 萌え咲かれ
さくらの雲*スカアレットの恋(きゃべつそふと) | |
ジャンル ―― 100年の時を超えるミステリイADV | |
発売日 ―― 2020年09月25日 | |
パッケージ版価格 ―― 9,800円(税抜) ダウンロード版価格 ―― 8,800円(税込) | |
評価
評価 | おすすめ度 |
★★★★★ | |
満足度 | |
作品の紹介
世の中「良い嘘」と「悪い嘘」というものが存在します。
相手のことを思いやってつく嘘が「良い嘘」。
自分の利益のために相手を騙す嘘が「悪い嘘」です。
悪い嘘をついてはいけません。
人を絶望の底にたたきおとし、ウソダドンドコドーンと叫ばせてしまうのです。
今回はあなた様に「良い嘘」が魅力的な作品……騙されることが気持ちいい、ココロオドルようなミスリードが魅力的な【さくらの雲*スカアレットの恋】通称【さくレット】を紹介します。
100年前にタイムスリップした主人公が、そこで出会った探偵業を営む女性とともに、さまざまな事件を解決しつつ、元の時代へと帰る道筋をさぐるストーリー展開です。
主人公の知識量と推理力も見どころですし、さまざまなキャラクターが複雑に絡み合った展開も面白い。
そして後半に見事に伏線回収されていくのが気持ちいい。
大正ロマンを求める方や、ミステリー作品が好きな人はぜひともプレイしましょう。
所持しているのはダウンロード版です。
ボイス集がついていて、作中のキャラクターが現代におりたつIFストーリーのボイスドラマも楽しめます。
攻略情報など
プレイ時間
私のプレイ時間は24時間ぐらいでした。最初のエッチシーンまでは9時間です。
攻略
攻略サイトを見るとネタバレになってしまうかもしれないので自力攻略を勧めます。
基本的には一本道ですし、選択肢がでてきても正解を選ぶまで選び直すことになるだけなので自力攻略は容易です。
システム
バックログ画面からのシーンジャンプ機能あり。
どんな人向け?
- ミステリー作品好き
- ミスリードを誘う展開が好きな人
- しっかりと伏線回収されている作品を求めている人
- 時代考証や引用の仕方が上手な作品を求めている人
- 冬茜トム氏の作品が好き人
感想
どんなお話?
2020年に生きる青年・風見司が100年前の帝都にタイムスリップをします。
そこで出会った探偵業を営んでいる女性に協力をあおぎ、元いた世界へ戻る道筋をさぐるのです。
キャラクターについて
所長 CV:猫田みけ
所長と司は、探偵とその助手として、一緒にさまざまな事件を解決するために奔走することになります。
まさに2人はパートナー。
不知出 遠子 CV:相模恋
帝都でも有数の名家である不知出家のお嬢さま。
所長が営む「チェリイ探偵事務所」のクライアントとして高額の報酬を支払ってくれることも。
メリッサ CV:花宮すい
透子に付き従うメイド。
可愛い。愛に焦がれた胸を貫いてほしい。
水神 蓮 CV:如月たま
浅草の女学校にかよう下町育ちの女の子。
他のヒロインは、この時代の一般的な女性というワケではないので、彼女の存在は際立っていたように思います。
恋文をしたためるシーンなんかが最高でした。
エッチシーンについて
卑語少しあり。ピー音あり。アナルモザイクなし。
ネタバレ感想
ここからはネタバレがあります。既プレイであることを前提とした文章になっているため、未プレイ者は読んでも意味が分からないと思います。この項目を飛ばす方はこちらをクリック。
作品と現実のリンク
冬茜トムさんが担当した前作【アメイジング・グレイス】の感想で述べたのですが、現実と作品内の時期をリンクさせていて、ある種のライブ感があったところを長所にあげました。今作でもそれは健在!
予約買いをして良かった。この令和2年にプレイができて良かった(感涙)。
しかもその設定すらもミスリードになっているという……。
司と加藤の違い
思えば加藤は可愛そうなやつです。
彼の過ごしていた時代も「平穏無事」じゃなかったのかもしれないことが示唆されていましたし、本当に国を良くしようという気持ちがあったのだと思います。
彼は長い年月をかけて周到に「歪み」をバラまいていきました。歴史に介入して大きく歪めるだけでなく、百鬼夜行の噂や、偽札を流通させることにより、より広範囲に歪みをバラまきました。
たかだか1ヵ月ぐらいしかこの時代にいなかった司がなぜそんな加藤に打ち勝ったかというと、他の枝で紡いできたものや、所長をはじめとした周りの人と絆を育んできたからに他なりません。
まぁメリッサというチートを使ったのもありますが。笑
同じ状況におかれた司と加藤の命運が、ここまで大きく分かたれたのは面白いものです。
それにしても加藤は、けっこうストレートに名前を決めていますよね。
荒俣宏によるSF小説『帝都物語』にでてくる加藤保憲……関東大震災をひきおこした人物になぞらえて名乗っていたのでしょうが、めちゃくちゃそのまんまでビックリしました。笑
もしかしたら分かりやすい名前をつけることによって、自分の「駒」になってくれる未来人を炙りだしたかったのかもしれませんが。
5年前に名乗っていた「ハセクラ」という名前も、漢字で書くと「支倉」ですので、自分の本名である「伏倉」をもじったのでしょう。
タイトルの意味
【さくらの雲*スカアレットの恋】というタイトルの意味について。
作中で「桜花 咲きにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲――」という紀貫之の和歌が引用されていましたが、これは山間から見える白雲を桜としてとらえている歌です。
今でこそ桜といえば「ソメイヨシノ」のイメージが強く「薄紅色」を思い浮かべるかもしれませんが、当時は桜といえば「ヤマザクラ」の「純白」をイメージしたんだとか。
それはそうと、「さくらの雲」は普通に「桜雲時代」のことを表しているのでしょう。
スカアレットの恋に関しては、「スカーレット=緋色」の意味合いを考えてみましょうか。
緋色は「燃えるような熱い想い」だとか「罪深い」という意味合いがあるそうです。
所長と司の時をこえた恋を「罪深い」と表現しているのか、あるいは純粋に「熱い想い」をもった恋を示しているのか……。
それだけでなくアーサー・コナン・ドイルによる長編小説『緋色の研究』もやはり関連性があるでしょう。
『緋色の研究』は、ホームズとワトスンの出会いと、その後に起こる殺人事件を描いたシャーロック・ホームズシリーズの最初の作品です。
この作品では、ホームズはワトスンと初対面であるにも拘わらず、左肩に重症をおっていることや彼の前歴を言い当てます。
それに対してさくレットでは、所長は司と一緒の時間をすごし、思いを通じ合わせたあとに「司の左腕」のことや「なぜこの時代にとどまろうと思っていたのか」を言い当てます。
この対比があまりにも美しい。
『櫻の樹の下には』の引用の意味
梶井基次郎の短編小説『櫻の樹の下には』が冒頭のほうとラストに2度引用されています。
これは、ただ美しいだけの存在である「桜」に不条理さを感じ、桜の下には屍体が埋まっていてその養分を吸うことで美しく咲き誇っているのだと想像することで、心の均衡を得る男の話だと思います。
私は冒頭とラストで感じ方が変わりました。
冒頭では、「綺麗なものには裏の顔がある」という意味合いのように感じていたのですが、
大正での時代をすごし、彼女たちが努力をして平和な未来を築いていったからこそ「令和」の時代が訪れた。
つまり「尊い犠牲のうえに今の平和な世の中が成り立っている」という解釈のように思いました。
なるほど、こうして2度引用をして、こうまで感じ方が違ってくるのは、なかなかどうして面白いなぁと関心しきりです。
このシーンで帽子を交換しあっているのが素晴らしすぎません?
不満点?
最後のお別れのとき「餞別」として色んなものを受け取るじゃないですか司くんが。
それすらも伏線だと思って、最後の最後にそれらのアイテムが揃った一枚絵で〆るかと思っていのたですが、そんなこともなくちょっぴり拍子抜けしました。そこぐらいですね。不満は。
あ、あと冒頭のほうの『櫻の樹の下には』の引用により「ヒロインに裏の顔がある」ことを疑って、素直にいイチャラブを楽しめませんでした。まじでもったいない読み方をしていたと思います。笑
その他
所長の本名である「レベッカ」の愛称は「ベッキー」ということで、司の飼っていた犬の名前を聞いて思うところがあったのでしょうね。
もしベッキィが亡くなった原因が「化学兵器」だったとしたら、令和の世に帰った司は生きているベッキィと再開できたのかもしれません。
ちよちゃんの声優さん、プロの声優っぽくないというか、失礼な言い方をすると素人声優っぽい喋り方でしたよね。
でも、そこがいい。
なんか段々とクセになってくる声質なんですよ。
瞳に『¥(円記号)』が浮かんでいる所長の立ち絵がめっちゃ好き!
今作では恋愛描写も過去作以上にかかれていましたし、エッチシーンにもフェティシズムがつめこまれていたと思います。
こんな爽やかな告白をしておいて、逆に司くんが快楽を教え込まれるようになるとは誰が思おうか。笑
私はSシチュのほうが好きなのであまり刺さりませんでしたが、濃い描写のされていた良いエッチシーンだったと思いますよ。
私は基本的にはボイスを全部聞くのですが、こういうシーンだとボイスを聞いているあいだに尻と顔を交互みるんですよ尻フェチとして。
なのでメリッサの肩の三日月型の模様にはソッコーで気づきました。笑
ここはマジでテンション上がりましたね。
うおおおおおと叫びながら最終のルートに突入できました。
メリッサの章では、『オリエント急行殺人事件』のようなまんまミステリー作品を読んでいるかのような展開が良かったです。
透子「私に手を出そうと? いいですわ、かかってきなさい。この不知出透子、たとえ相手が竜でも虎でも退きはしないと心に決めておりますのよ!」
それと、過去の透子とメリッサのエピソードが好きですね。彼女たちの絆の強さが垣間見えました。
よく見たらこの手紙、司の誕生日(もしかしたら司の生まれた日)に書き上げているんですよね。
エンディングのレベッカが出てくる場面に「誕生日おめでとう――司。これからの未来を、よろしく頼む」と記されているのですが、少なくとも司が生まれるまでは生き延びたことが分かります。すると100歳以上での大往生か。
ネタバレ感想まとめ
所長と司の、時を超えた素敵な恋物語でした。
「初歩だよ、司」
「私もおまえを、愛している」
まとめ
ココがイマイチ
- 多少退屈なシーンもあり
- 派手な展開を求めている人には合わないかも
ココがおすすめ
- オタクは大正ロマンが好き
- BGMや挿入歌の使い方がうまい
- 伏線回収やミスリートを誘う展開が見もの
- 脇役までもが活躍する
- キャラクター同士に様々な繋がりがあるのが素晴らしい
- ストーリー以外にも力を入れていた
- 物語の〆方が綺麗だった
- 現実とリンクしていた
よく練られた良い作品でした。
体験版をプレイして先の展開が気になった人や、冬茜トムさんの作品が好きな人ならば迷わずおすすめできます。
できれば2020年のうちにプレイしましょう。
ダウンロード版
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